東京地方裁判所 平成2年(ワ)16495号 判決 1993年8月30日
原告
手塚崇夫外五二一名
右訴訟代理人弁護士
川島仟太郎
被告
株式会社サン・グリーンカントリー倶楽部
右代表者代表取締役
川端安次
右訴訟代理人弁護士
古屋亀鶴
同
嶋田雅弘
主文
一 被告は、サングリーンカントリー倶楽部におけるゴルフプレーの予約方法及びスタート時間に関し、グリーンカード正会員及びゴールドカード正会員と原告らとの間に一切の差別的取扱いをしてはならない。
二 被告は、サングリーンカントリー倶楽部におけるゴルフプレーの予約方法及びスタート時間に関し、原告らより有利な条件付きのグリーンカード会員又はゴールドカード会員等の正会員を新規に募集又は創設してはならない。
三 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用は被告の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 (主位的請求)
被告は、原告らに対し、ゴルフプレー権の行使につき、予約受付時間、予約方法及び被告主催のスーパーコンペ参加資格に関し、グリーンカード正会員及びゴールドカード正会員と原告らとの間に一切の差別的取扱いをしてはならない。
(予備的請求)
原告らと被告との間において、原告らはグリーンカード正会員及びゴールドカード正会員とゴルフプレー権行使につき、予約方法、予約受付時間及びスーパーコンペ参加資格において同一の権利を有し、あるいは同一に取り扱うべき地位にあることを確認する。
2 被告は、原告らの正会員としてのゴルフプレー権の行使につき、予約受付時間、予約方法及び被告主催のスーパーコンペの参加資格について、原告らより有利な条件付きのグリーンカード会員又はゴールドカード会員等の正会員を新規に募集又は創設してはならない。
3 被告は、原告らに対し、各金五五六二円を支払え。
4 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 当事者
被告は、いわゆる預託金会員制ゴルフ倶楽部であるゴルフ場「サングリーンカントリー倶楽部」(以下「本件ゴルフ場」という。)を経営する株式会社である。なお、被告は、昭和四七年二月二八日に株式会社新里として設立されたが、その後新里株式会社、株式会社最上新里カントリー倶楽部と商号を変え、昭和六二年一二月五日、株式会社サン・グリーンカントリー倶楽部に商号変更して現在に至っている。
原告らは、昭和四七年ころから同六一年ころまでの間に、被告との間に入会契約(以下「本件ゴルフ倶楽部会員契約」という。)を締結して、本件ゴルフ場の個人又は法人(記名式)の正会員となった者である。
2 被告の契約不履行
(一) 被告は、昭和六三年三月に、全正会員に対し、同年五月一日以降は入会協力金三〇〇万円を納めない限り退会扱いとする旨一方的に発表し、原告らの抗議によりそれは撤回したものの、同年一〇月以降、入会協力金三〇〇万円を納めた正会員をグリーンカード正会員とし、予約方法、スタート時間、コンペ参加資格等について、正会員とは異なった特典を与えることとし、原告らに対する差別的取扱いを開始した。さらに、被告は、平成元年以降は、入会金三〇〇万円、預託金一二〇〇万円で新会員を募集し、これを「ゴールドカード正会員」として、やはりグリーンカード正会員と同様の特典を与え、原告らに対する差別的取扱いを行っている。
(二) グリーンカード正会員及びゴールドカード正会員(以下両者あわせて「G・G会員」という。)に与えられている特典は、次のとおりである。
(1) 予約方法及びスタート時間
他の正会員は、二か月前の同日予約開始のシステムが取られているにもかかわらず、G・G会員は、午前九時から同九時四二分までのスタート時間を優先的に割り当てられ、その時間帯に関しては一週間前の予約が可能である。
また、正会員が予約を取っている時間帯であっても、G・G会員を優先的に割り込ませて先順位でスタートさせることが多い。
(2) コンペ参加資格
被告は、G・G会員のみが参加できるスーパーコンペを開催し、その入賞者には海外旅行等の商品を提供している。
(3) ロッカーの優先的使用権
被告は、これまでロッカーを使用してきた正会員を今後排除し、G・G会員に優先的にロッカーを使用させる予定である。
3 原告らの請求の法的根拠
(一) 原告らと被告との間の本件ゴルフ倶楽部会員契約に基づく権利関係は、新里カントリー倶楽部会則(以下「新里会則」という。)によって規律されている(なお、被告は、現在一方的に新里カントリー倶楽部会則を改訂し、現在サン・グリーンカントリークラブ会則を施行しているが、原告らも会員の権利を侵害しない限度において同会則を契約内容として認めている。)ところ、右会則には、会員は所定の年会費及び諸費用を支払えば、休場日を除きいつでもコース並びにその付属設備を利用してゴルフプレーをすることができる旨定められており、原告らは、被告に対し、ゴルフ場のコース及びその付属施設を優先して利用する請求権を有する。
(二) ところで、新里会則上会員の種類は正会員と平日会員以外には存在しないのであるから、正会員がすべて平等の権利を有することは、本件ゴルフ倶楽部会員契約の当然の前提となっている(これは、現会則上も同様である。)。また、日本の預託金会員制ゴルフ倶楽部においては、正会員はすべて平等に扱われており、正会員を平等に扱うべきことは民法九二条の事実たる慣習となっている。
したがって、前記優先的利用権は、ビジターに対する優先権であるとともに、他の会員との間でも平等に取り扱われるべき権利を包含するものであり、その裏返しとして、原告らよりも優先権を持った会員を創設、募集してはならない不作為義務を被告に課すものであるから、被告が原告らよりも優先的な権利を有する正会員を募集することは、本件ゴルフ倶楽部会員契約に反する行為である。
なお、被告は、右不作為義務を、昭和六三年九月二一日に原告らとの間で締結した合意書においても確認している。すなわち、右合意書において被告は、原告らが被告の措置を不満として結成した「新里会員を守る会」(以下「守る会」という。)に対し、昭和六三年五月一日以降も原告らが同年四月時と同様の権利義務を有することを確認したが、これは、被告が原告らに対し、原告らよりも有利な権利を有する正会員を創設しないことを約したものである。
(三) 仮に、以上の解釈が認められないとしても、原告らが被告との間で本件ゴルフ倶楽部会員契約を締結した当時、原告らより優先する権利を有する正会員はおらず、原告らは、正会員はすべて平等の権利を有することを前提に入会した。したがって、その後原告らよりも優先する権利を有する正会員の制度を導入することは、原告らの本件ゴルフ倶楽部会員契約上最も重要且つ基本的な権利であるゴルフプレー権を侵害することになるから、原告ら正会員の承諾がない限りなしえないと解すべきである。
それゆえ、原告らの承諾を得ることなく、原告らより優先する権利を有する正会員を募集することは、本件ゴルフ倶楽部会員契約上の原告らの権利を侵害するものである。
(四) 仮に、以上の主張がすべて認められないとしても、被告が、預託金会員制ゴルフ場であることを奇貨として、原告らよりも優先する権利を有する正会員を導入することは、信義則に反し、あるいは権利の濫用であって、無効である。
4 原告らの損害
被告の債務不履行により、原告らは、本件裁判を提起せざるを得なくなり、その維持のため、次の諸費用の支出を余儀なくされた。その合計額は三〇〇万九二一一円であり、原告一人当たりに換算すると五五六二円となる。
(一) 会議費 一〇一万一九四一円
(二) 印刷費 六六万八四一六円
(三) 通信費 四二万〇五四六円
(四) 事務費 五五万六六二六円
(五) 交通費 一五万〇七六四円
(六) 調査費 二〇万〇九一八円
5 よって、原告らは、被告に対し、本件ゴルフ倶楽部会員契約に基づき、①原告らに対するG・G会員との間の差別的取扱いの中止、及び②原告らよりも優先的な権利を有するG・G会員の募集の中止を求め、①の予備的請求として、原告らがG・G会員等に対して平等の権利を有することの確認を求めるとともに、債務不履行に基づく損害賠償請求として、原告ら各自に対し、金五五六二円の支払を求める。
二 請求原因に対する認否及び被告の主張
1 認否
(一) 1及び2(一)は認める。
(二) 同(二)のうち、被告が(1)後段及び(3)記載の特典をG・G会員に対し与えていることは否認し、その余は認める。ただし、G・G会員に優先的に割り当てられる時間帯は季節によって異なる。
(三) 3(一)は認める。ただし、サン・グリーンカントリークラブ会則は、会員から委嘱された理事を含む理事会の決議によって、適正に改正されたものである。
(四) 同(二)ないし(四)は否認する。
(五) 4は知らない。
2 被告の主張
(一) 主張
(1) ゴルフ場施設利用請求権は、会員以外のビジターに対し優先してプレーすることができ、かつビジターより廉価でプレーできることを請求しうる権利にすぎず、また、その性質は純粋な債権であり、団体法の規制をうける権利ではないから、ゴルフ場経営者は、その判断によって、新規に従来の会員と異なる内容の会員を募集し、あるいは、会則とは別に、会員と個別の契約をすることもできると解すべきである。したがって、原告らは、他の会員との比較において、優先的にあるいは平等にゴルフ場の利用を請求しうるものではなく、被告には会員すべてを平等に取り扱わなければならない義務はない。
(2) また、会員に対し、ゴルフ場をビジターにどの程度優先して利用させるかは、入会金の多寡との相関関係によって決まるものであり、原告らのように僅かの入会金しか納めていない会員は、様々な制限の下で、ある程度ビジターに優先してゴルフ場を利用できる権利を有するにすぎない。そして、予約システムは、ビジターと会員との間におけるゴルフ場の利用割合の調整を図るために不可欠なものであり、これは、ゴルフ倶楽部の経営状態、季節、会員数、宿泊施設等に応じて常に調整が必要なものであり、その内容の決定は、ゴルフ場経営者の専権に属し、原告らのゴルフ場施設利用請求権の内容には含まれないと解すべきである。
なお、新里会則には、予約システムに関して直接定めた条項はなく、その一八条、二六条によれば、理事会の決定でこれを定めることができることは明らかである。
(3) また、被告が今回G・G会員を設けて原告らと異なった特典を与えていることには、合理的な理由がある。すなわち、本件ゴルフ場は、昭和五九年四月二五日に被告の親会社である最上恒産株式会社が買収する以前は、施設は劣悪であったうえ、約七〇〇〇名もの会員がおり、会員が十分にゴルフを楽しめるゴルフ場ではなかった。そこで、被告は、ゴルフ場施設の改修及びホテルの増築と会員数の減少を図る必要に迫られ、そのためには巨額の資金が必要となったことから、継続を希望する会員から三〇〇万円の追加協力金の拠出を受け、これを退会者への入会金返還の原資及び施設改修費の一部に充てることとし、追加協力金を支払った会員については、グリーンカード正会員として、予約等につき有利な取扱いをすることとした。さらに、それだけでは不十分であったことから、新たにゴールドカード正会員を募集し、やはりグリーンカード正会員と同様の有利な取扱いをすることにしたのである。このように、多額の資金の支払に協力したG・G会員に対し、予約システムにおいてある程度の優遇措置を取ることは、極めて合理的である。そのうえ、本件ゴルフ場は、施設が改善され、会員数も大幅に減少して予約も取りやすくなったのであるから、原告らには実質的に何らの被害も生じていない。
(4) スーパーコンペは、新たに資金提供をしてくれた会員に対し、被告が感謝の意を込めて行っているコンペであるところ、このコンペに原告らを参加させなかったとしても、原告らは、他のコンペには参加できるのであるから、これは、原告らの基本的権利に重大な変更をもたらすほどの差別ではない。
(二) 抗弁
被告は、G・G会員に対する予約方法、スタート時間についての特典を平成四年四月一日以降廃止することを、同年二月二六日の理事会決議で決定し、同年三月一日から、その旨本件ゴルフ場の二階食堂、競技用掲示板等に掲示して全会員に通知した。さらに、同年三月末ころ、被告は、全会員に対し、右予約方法の変更について「プレーのご予約について」と題する書面を郵送し、同年四月一日から実施に移した。なお、被告は、念のため、右内容を平成五年三月三一日発行の会報にも掲載し、同年四月以降も同様であることを周知させている。
したがって、被告は、現在G・G会員と原告らとの間で予約方法、スタート時間について差別的取扱いはしておらず、この点に関する原告らの主張は理由がない。
三 被告の主張に対する原告の認否及び反論
1 (一)(1)及び(2)は争う。一般的に、ゴルフ場経営者が新規に会員を募集することが許されるとしても、既存の正会員の権利を侵害するような条件での募集は許されない。また、予約方法も正会員のゴルフプレー権を侵害しない範囲内での変更のみが許されるのであり、正会員はすべて平等に扱われなければならない。
ゴルフ倶楽部入会金の額は、単にその時期の会員権の市場価格に応じて変動するに過ぎず、もともと価格の異なる複数の会員権があるわけではない。したがって、正会員である以上、そのゴルフ場施設利用請求権の内容は、納めた入会金の額にかかわらず平等でなければならない。
2 同(3)は否認する。本件ゴルフ場の改修は、被告がビジターのゴルフプレー等によって得ている収益で十分に可能である。
3 同(4)は争う。
4 (二)の事実は否認する。現在でもG・G会員の優先的取扱いは廃止されていない。
なお、仮に廃止されたとしても、今回の廃止は裁判対策上のものにすぎず、被告は今後再び原告らよりも優先した権利を有する会員を募集する可能性があり、原告らの請求には将来の給付請求としての訴えの利益が存在する。
第三 証拠<省略>
理由
一請求原因1は当事者間に争いがない。
二請求原因2、3及び被告の抗弁について
1(一) 事実欄に摘示した当事者間に争いがない事実及び証拠(<書証番号略>、原告近能文衛本人、証人桜井憲)並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(1) 被告は、昭和五八年に新里株式会社を買収し、本件ゴルフ場の経営を引き継いだが(当初の商号は株式会社最上新里カントリー倶楽部)、昭和六二年一二月五日、株式会社サン・グリーンカントリー倶楽部と商号変更したのを契機に、会員数を整理することとし、昭和六三年五月一日以降従来どおり正会員としてプレーすることを希望する会員には三〇〇万円の入会協力金の納付を求め、これを納付しない会員は退会扱いとすることを決め、同年三月一七日付けの書面で、全正会員に対し、その旨の通知をした。
これに対し、原告らは、守る会を結成し、裁判所に対して仮処分を申請するなどして対抗したが、その後の原告らと被告の協議によって、同年八月二五日、被告は入会協力金の納付請求を撤回するとともに、原告らに対し、同年五月一日以降も原告の正会員又は平日会員として同年四月時と同様の権利義務を有することを認め、同年九月二一日、守る会と被告はその旨の合意書を取り交わした。
(2) その後、被告は、同年一〇月ころから、三〇〇万円の追加協力金を納付した会員に対しては、「グリーンカード」を発行してグリーンカード正会員とし、予約方法、スタート時間、コンペ参加資格等について他の正会員とは異なった特典を与えることとし、その旨の案内を同年一一月一日発行の会報に掲載するとともに、入会金三〇〇万円、預託金一二〇〇万円で、グリーンカード正会員と同様の特典を与えるゴールドカード正会員(ただし、ゴールドカード正会員については無記名の平日会員証が三名分発行されるという特典もある。)の募集を開始した。なお、G・G会員に対する特典の付与は、会則で定められたものではなく、事実上定められたものであって、被告は、各G・G会員との間では、口頭で右特典付与を約束していた。
(3) 被告がG・G会員に認めた予約方法及びコンペ参加資格に関する特典は、次のようなものであった。
すなわち、従来予約は二か月前の該当月の一日から一斉に受け付けており、これは全会員に共通であったが、G・G会員については、午前の一定の時間帯(午前九時から同九時四二分までのことが多いが、その時間は季節によって変更される。ただし、いずれにせよ最も人気のある時間帯である。)の二一組分を優先枠として残し、この枠については一週間前まではキャンセル待ち以外の一般正会員の予約は受け付けず、一週間前になっても空きがあった場合に限り一般正会員の予約を受け付けることとした。
また、G・G会員のみが参加でき、一般正会員には参加資格のないコンペ(以下「スーパーコンペ」という。)を年一回開催し、他のコンペとは異なる豪華な商品を提供した。ただし、本件ゴルフ場では他にも年二十数回のコンペが行われており、一般正会員もそれらのコンペには自由に参加できた。
(二) しかし、原告らが主張する、①正会員が予約を取っている時間帯であっても、G・G会員を優先的に割り込ませて先順位でスタートさせることが多い事実及び②ロッカーをG・G会員に優先的に利用させる予定である事実については、いずれもこれを認めるに足りる証拠がない。
2 以上の事実に基づいて検討する。
(一) いわゆる預託金会員制ゴルフ倶楽部の会員は、ゴルフ場経営者に対し、ゴルフ場施設利用請求権(その中心をなすのが「ゴルフプレー権」である。)を有するが、右ゴルフ場施設利用請求権は、会員とゴルフ場経営者との間で個別に締結されるゴルフ倶楽部入会契約に基づく純粋な債権的請求権であり、その内容は、会員が入会時に承認することによって契約の内容となっている会則によって規律されるものである。したがって、会員相互間の権利関係をすべて平等に取り扱うべきことが、ゴルフ倶楽部入会契約の内容として当然に導き出されるものではない(なお、原告らは、全会員の権利を平等に取り扱うべきことは、事実たる慣習として、当然に本件ゴルフ倶楽部会員契約の内容に取り込まれていると主張するが、そのような事実たる慣習が成立していることを認めるに足りる証拠はない。)。
(二) そこで、本件ゴルフ倶楽部会員契約上の原告らの権利について定めている会則について検討すると(なお、<書証番号略>及び弁論の全趣旨により、本件ゴルフ場の会則は、現在では、昭和五三年に改正されたサン・グリーンゴルフクラブ会則が妥当しているが会員の権利に関する部分には変更がないものと推認されるから、以下右会則を前提として検討することとする。)、会員のゴルフプレー権については、一〇条において、「会員は、所定の年会費並びに諸料金を支払い、休場日を除き、いつでもコース並びにその付属施設を利用してゴルフプレーすることができる。」と定められているのみであり他に何らの規定もない。したがって、本件ゴルフ倶楽部会員契約においては、会員相互間にゴルフプレー権についてその権利内容に差異を設けないことが前提とされていたものと解するのが当然である。被告は、これは、いわゆるビジターとの関係において優先してプレーできる旨を定めたものにすぎない旨主張するが、いかなる種類の会員が存在し、その相互の権利関係がいかなるものであるかということは、ゴルフプレー権の内容にかかわる重大な問題であるから、当然入会契約締結時に定めることを要する事柄であると解され、会則に明示の定めがない以上、ゴルフプレー権に関しては正会員はすべて平等に取り扱うべきことが、本件ゴルフ倶楽部会員契約の内容となっていると解するのが相当である。そうだとすると、被告は、原告らの個別の同意を得ない限り、会員の最も基本的な権利であるゴルフプレー権に関し、これと異なった取扱いをすることは許されないというべきである(これは、たとえ会則の改正という形をとっても、会則が入会契約の内容をなするものである以上は同様である。)。なお、会員のゴルフプレー権は、当初から明示的に入会金の金額によって権利内容に差異を設けて会員を募集していたような場合は格別、そうでない限り支払った入会金の額によって権利内容を違えることは許されないと解されるから、入会金の多寡は考慮すべきではない。
(三) そこで、以上の見地から、被告がG・G会員を創設して、(1)予約方法、スタート時間に関する差別、(2)コンペ参加資格に関する差別を行っていることが、許されるかどうか検討する。
(1) 予約方法、スタート時間に関する差別的取扱い
予約制度は、ゴルフ場施設の利用に関し、会員相互あるいはビジターとの間で利用を調整するために不可欠なものであり、その内容によっては、会員のゴルフプレー権の態様に直接的な影響を与えるものであるから、会員のゴルフプレー権の本質的部分に属する事柄であると解される。また、スタート時間は、その時間帯によっては遠距離の会員にとってゴルフプレーが困難になるなど、ゴルフプレー権の実現に極めて大きな影響を与える重大な事項であり、やはりゴルフプレー権の本質的部分に属する事項である。したがって、、前記説示からみて、原告らに関しては、予約方法及びスタート時間においても正会員はすべて平等に取り扱われることが当然に本件ゴルフ倶楽部会員契約の内容となっていると解すべきであるから、予約方法、スタート時間においてG・G会員に特典を与え、その結果原告らを従来よりも不利な地位に置くことは、原告らの右契約上の権利を侵害する行為であり、許されないと解される。
(2) スーパーコンペ参加資格についての差別的取扱い
コンペは、もともとゴルフプレー権そのものではなく、むしろゴルフ場経営者によって提供される補充的なサービスの一つであると解されるから、特約がない限りゴルフプレー権の内容には含まれず、したがって、被告が自由にその開催の有無、頻度、参加資格等について決定することができるものと解すべきである。そして、本件においてコンペについて何らかの特約があったことを認めるに足りる証拠はない。
また、前記のとおり、スーパーコンペは年一回開催されるもので、通常のコンペとの差異も賞品の種類にあるにすぎないこと、本件ゴルフ場では年間二十数回の月例会等のゴルフコンペが開催されており、これらには原告らも自由に参加していることを考慮すると、実質的に見ても、スーパーコンペの創設が原告らの従来の地位に変更をもたらすものともいえない。したがって、スーパーコンペ参加資格についての差別的取扱いは、原告らの本件ゴルフ倶楽部会員契約上の権利を侵害するものとは認められない。
(四) これに対し、被告はG・G会員を創設して原告らとは異なった特典を与えることには合理性がある旨主張する。
確かに、証拠(<書証番号略>、証人桜井)によれば、被告は、昭和五九年以降、会員数を相当減少させ、また、相当の費用をかけて本件ゴルフ場の整備、改修を行ってきたことが認められる。しかしながら、ゴルフ場経営者がゴルフ場施設の改善をはかるために資金を調達することに合理性が認められるとしても、その手段として既存の金員の契約上の権利を侵害するような方法をとることが正当化されるいわれはないから、被告の主張は理由がない。
(五) 以上のとおり、被告がG・G会員を募集して予約方法及びスタート時間について原告らとの間に差別的取扱いをすることは、原告らの本件ゴルフ倶楽部会員契約上のゴルフプレー権を侵害する契約違反行為である。したがって、原告らは、被告に対し、本件ゴルフ倶楽部会員契約上の義務の履行請求として、予約方法及びスタート時間について、原告らとG・G会員との間で差別的取扱いをしないこと、並びに予約方法及びスタート時間について原告らよりも有利な特典を有する新会員の募集を行わないことを請求する権利を有するというべきである。
3 被告の抗弁について
被告は、原告らに対する差別的取扱いはすでに中止した旨主張するので、検討する。
(一) 証拠(<書証番号略>、証人桜井)によれば、被告は、現在ではG・G会員の新規募集を行っておらず、新会員の募集に際して何らかの特典が付与されていることもないこと、予約の殺到によって、G・G会員の優先枠を一週間前まで空けておくことは現実には不可能となったことから、平成四年二月二六日に開催されたサン・グリーンカントリー倶楽部理事会において平成四年四月一日以降はG・G会員に対する優先枠を事実上廃止し、一般正会員と同様の予約受付方法によることを決議したこと、その結果現在ではG・G会員に対する優先枠は設けられていないこと、以上の事実が認められる。したがって、現在ではG・G会員に対する予約方法、スタート時間における特典は存在せず、また、被告は新たなG・G会員又は特典を有する新会員の募集も行っていないため、原告らの請求権は満足されたといわざるをえず、原告らの請求は、現在の給付を求めるものとしては理由がない。
(二) しかしながら、前記認定のとおり、もともと一般正会員に対するのとは異なったG・G会員に対する予約方法が別個に存在したわけではなく、一般正会員とG・G会員との予約方法は同一であったのであり、ただ、G・G会員については優先枠があって、事実上一週間前まで予約をとることが可能であったというにすぎないこと、前掲各証拠によれば、被告は、G・G会員に対する特典を廃止したことを、予約方法の変更という形でクラブハウスにおける掲示、全会員への文書の送付、平成五年三月三一日発行の会報への掲載によって会員に通知していることが認められるものの、右通知は、単にこれまで一般正会員、G・G会員ともに共通であった予約方法について変更したことを告知したにすぎないようにも受け取られかねない内容であって、これにより、G・G会員に対する特典が廃止されたことが、一見して明らかであるとはいいがたいこと、被告がG・G会員の特別枠を廃止したのは、予約が殺到して機能しなくなったという多分に技術的な問題によるものにすぎず、必ずしも原告らに対する契約不履行の状態を解消することが主要な目的であったとも認め難いこと、そもそもG・G会員に対する特典も会則で定められたものではなく、事実上行われていたものにすぎないこと、被告らがG・G会員に対する特典を廃止したことにより、G・G会員に対する債務不履行の問題が生ずることが当然予想されるところ、被告が取った対処が必ずしも明らかではないこと(桜井証人によれば、何人かのG・G会員については預託金を返還したことが認められるのみである。)、被告はG・G会員制度自体を廃止したわけではないこと(証人桜井によれば、G・G会員に対する予約方法以外の特典はまだ存在していることが認められる。)等の事実を考慮すると、被告が将来再びG・G会員に対する予約方法及びスタート時間における特典の付与を再開する可能性は否定できず、かつそれは比較的容易であると認められる。そして、その場合には、原告らは直ちにゴルフプレー権の重大な侵害を受けることになるのであるから、原告らの請求が現在の請求としては理由のないものであっても、将来の差別的取扱いの禁止を求める請求としてみれば、訴えの利益があるというべきである。
(三) よって、原告らの請求のうち、被告に対し、G・G会員との間で予約方法及びスタート時間(なお、原告が請求の趣旨において予約受付時間と表記しているのは、スタート時間の趣旨であると認められる。)に関し、将来差別的取扱いをしないこと、並びに予約方法及びスタート時間に関し原告らよりも有利な特典を有する正会員の将来の募集の差止を求める部分は、理由がある(なお、原告らがコンペ参加資格に関する差別的取扱いの禁止を求める権利を有しないことは前記のとおりであるから、この部分については予備的請求も理由がない。また、その余の部分については、将来の不作為請求が認められれば権利の確認を求める利益はないから、予備的請求について判断するまでもない。)。
三 請求原因4について
<書証番号略>によれば、守る会は、平成元年五月一日から同二年三月三一日までの間に、原告主張どおりの金員を支出したことが認められる。しかしながら、これらは、弁論の全趣旨によれば、要するに原告らが本訴を提起、追行するのに要した費用以上のものではないことが明らかであるところ、そのような費用は一般的には債務不履行に基づく損害とはいえないのであるから、結局、これらを被告の債務不履行と相当因果関係の範囲内にある損害と認めることはできない。
四結論
以上の次第で、原告らの請求は、主位的請求のうち、予約方法及びスタート時間に関する原告らとG・G会員との間の将来の差別的取扱いの中止を求め、並びに予約方法及びスタート時間に関し原告らよりも有利な特典を有する正会員の将来の募集の差止めを求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官赤塚信雄 裁判官綿引穰 裁判官谷口安史は、海外出張のため、署名押印できない。裁判長裁判官赤塚信雄)